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東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)31号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判決理由】二、そこで審決の当否について検討する。

(一) 右の当事者間に争いのない事実と成立に争いのない甲第一号証(本件実用新案の実用新案公報)とによれば、本件実用新案の考案要旨は、別紙甲図面に示すように「ホークへら1を形成する数個のホーク片2の下端は、犂先5の上端に定着した取付金具6に固着し、各ホーク片2の上端は下方へ屈曲2′すると共に横杆3により一体に連繋し、犂身4の底部に貫通した回動軸12の先端を犂先5の裏面に連結し、回動軸12の基端に操作杆13を連結してなるホークへらを取り付けた双用犂の構造」にあるものと認められる。

(二) 次に、<証拠―省略>合わせると、次の(イ)、(ロ)の各事実が認められる。

(イ) 佐賀県農林部農業改良課の主催で、同課の技術員川崎夏司の担当によつて、昭和二八年四月一三日から同月一八日までを会期とし、同県農業試験場切木分場(同県東松浦郡切木村所在)において畜力利用畑作講習会が開かれたのであるが、これは当時この地方の農家に被告会社の製品が次第に普及される形勢にあつたところ、被告会社の製品は機械が精巧で使用に困難があつたがため、県当局において農業改良普及員を主体とし、これに附近の青年団員、農家等を加えたものを対象として、被告会社製の犂の操作方法を習得させるのを目的とし被告会社の協力の下に開いたものであつて、かような事情から被告会社において県当局の依託により、その実際の運営、施行に当つたものであつた。そして、被告会社は講習用に、その頃製作、販売して普及させていた、ホーク状のへらの片が個別に自由に動く、いわゆる自由へらの犂である、商品名「土の母」号、水田用単用二段耕及び畑用双用二号、三号等を佐賀市の販売代理店池田金次郎の手を経て会場に搬入準備し、これを教材に使用して、講師に被告会社の技術員をあて、講習参加員約四、五十名を数班に分け、講習事務関係者、手伝人等の自由な出入と附近農家等の自由な参観の下に、右の自由へらの犂について実地の使用法等の技術指導を行つたのである。ところが当時被告会社においては、ホーク状へら片の上部を下方に曲げてへら片が個々に動かぬように一組に固定して組み立てた弾性へらの犂を完成していたので、社長高北新治郎は、右の講習会に出向くのを機会にそれが同地方の土質に適合するかどうかを試験して見ようと考え、講習会の開催直前になつて、これを別途に送り、唐津市の販売代理店佐藤進を通じて会場内に搬入し、講習会終了の前日である四月一七日には、被告会社から指導員として講習会に加わつていた技術員工藤某を伴い同入を相手に、右会場内の畑で、これを使用して、土の反転状況、附着状況、機械の使用工合等を詳細に試験、調査したために、前記川崎夏司を始め、附近にいた講習参加員数十名や近所の一般参観者等多数の者が珍らしがつて集合して注視するにいたり、またこの試験調査にあたつて社長と工藤某とが互いに使用工合等について話し合い、意見を交換するのを聞いて、社長らに質問をし、説明をきく者もあつた状況であつた。そして講習会の終了後社長は、その開催のための事務に従事していた被告会社の社員に、右の試験に使つた犂一台を佐賀県農業試験場に寄贈するよう命じ、右社員の取りはからいでその後間もなく前記川崎の了解のもとに、それが右農業試験場に搬入して寄贈せられ(この犂は、「土の母」号畑用三号の犂体を利用して作つたもので、製造番号の記載はなく、ホーク片六本のものであつた。以下この犂を「高北式犂」と称する。)、じ来約一ケ年間一般参観者の出入する同試験場農機具展示室内におかれていたのであるが、その後燻蒸乾燥室の一隔にしまいこまれて今日に至つたのである<中略>

(ロ) そして、前記の「高北式犂」の外観、構造は、別紙乙図面のとおりであつて、すなわちその構造は右図面に示すように「犂先犂へら支持板1は断面を丁字形に形成してホーク状犂へら7と犂先10とを連結し、その後部(上方部)は櫛型状2に分割し、各分割片上にホーク状犂へら7を形成する六個の犂へら片3の下端をかしめ止め(六個全部)、溶着(両端の二個だけ)して連繋固着し、支持板1の前部(下方部)はその大部分を外側から支持金具を覆いかぶせるように螺子で固定し、ホーク状犂へら7はホーク状になるように断面を孤状に彎曲した六個の犂へら片3から形成され、その上部4は下面に約九〇度ぐらい曲げ、その先端5に櫛型状をなす横杆6の上端をかしめ止め(六個全部)、熔着(両端の二個だけ)して一体に連繋し、シヤフト9は犂体8の下部に固定した犂床金具のほぼ中心部を前後に貫通するように設け、その前方部は犂先10の裏面に固定した支持金具の下端の軸受内部に挿入し、右支持金具を介して犂先10に、また支持金具及び犂先犂へら支持板1を介してホーク状犂へら7にそれぞれ連結し、シヤフト9の後端に反転杆11を連結し、犂へら片3の先端に固着した横杆6の下端が犂体8に固定したへら止めの表面を滑つて傾動するようにした」ものである。

右のように認定されるのであつて、<中略>他にこの認定を動かすに足る証拠は存しない。

(三) ところでさきに見た本件実用新案の構造と、右認定の「高北式犂」の構造とを対比するとき後者は前者の考案要旨とする構造をことごとく具備するものと認められ、本件実用新案の実施例である甲第一号証図示のものと右「高北式犂」とにおいては、犂へら片が五本であるのと六本である等の差異がないではないが、これは正に構造上の微差にすぎないから前者は後者に類似するものというべきである。

従つて結局本件実用新案は、その出願前たる昭和二八年四月一七日被告会社社長らが前記の如く、佐賀県農業試験場切木分場で犂の実験使用をし、多数人が自由にこれを参観したことによつて公然知られるに至つたものの構造に類似するものであるということになる。

(四) 審決の認定判断は右と多少趣を異にする部分があるが、帰するところこれと同一の趣旨を以て本件実用新案が旧実用新案法第三条第一号に該当し、同法第一条の規定に違反して登録されたものと判断しているのであり、審決の右判断は相当であつて、違法は存しない。(山下朝一 古原勇雄 田倉整)

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